改正マンション建て替え円滑化法
改正マンション建て替え円滑化法が昨年(2014年)6月に成立し、12月より施行されました。改正のポイントは、区分所有者の5分の4が同意すれば建物の解体と跡地の売却が認められることです。適用されるマンションは、1981年以前の旧耐震基準で建てられていて耐震不足と認定されたもの。
これまで老朽化への対策として「建て替えあるいは大規模改修を挙げていましたが、これに新たな選択肢が加わる」(国土交通省)ことになり、注目されます。当サイトでは、従前の法により建て替えられたマンションの事例を分析し、ヒントを探ることにします。
改正法の適用範囲とされる1982年までの竣工マンションは首都圏に1万2千件、83万戸あり、その建替えは1980年代からはじまり、建設中を含めて現在110件の事例があります。下のグラフはその竣工推移を示したものです。縦棒はその年の竣工戸数で、橙色が建替え前の戸数、紅色が建替えによる増加戸数。そして緑色の点線は建替え完了までの築年数を示します。
つぎは建て替え前の物件の分譲主(旧分譲主)についての分析です。旧分譲主は民間、公団公社、同潤会の3つに分けられます。それぞれの項目別の数値をまとめたのが下の表です。
旧施主別 建替え詳細一覧 | |||||
分譲主 | 建替え 件数 |
旧戸数 (平均) |
増加戸数 (平均) |
増加率 (平均) |
築後年数 (平均) |
民間 | 44 | 42 | 52 | 224% | 39 |
公団公社 | 57 | 117 | 98 | 184% | 43 |
同潤会 | 11 | 16 | 20 | 125% | 73 |
一般にマンションといえば民間マンションを想定されます。それはストックが圧倒的に多いからです。ところが建て替えられた件数は44件:57件で公団・公社の方が抜けています。
ストックに対する建て替え率は公団・公社が10%、東京都内に限るとじつに40%に達しています。対して民間マンションは0.3~0.4%と大差がついています。全国平均の建て替え率は0.5%前後と報道されていますがそれよりも低い数値です。
補足すれば、公団・公社のストックにはすでに耐震補強工事を済ませたもの、耐震基準を満たしているものがあり、これに建て替え分を加えるとほとんどが新基準をクリアしているとみられます。
このように公団・公社の住宅では建て替えが進んでいるのに、民間マンションはどうして停滞しているのでしょう。その要因を調べてみました。
公団・公社の建替え事例には 等価交換方式に基づくものが多くみられます。この方式は建て替えた建物が今より大きくなることが前提で、その余剰分を販売することで資金を捻出しています。
団地形式の公団住宅は、敷地が広く、中層の建物(5階建以下)で構成されるのが多くあり、これを高層に建て替えると余剰住戸が発生するので、等価交換方式には適合しています。
対照的に民間マンションの建物はほとんどが高層で、しかも単棟式です。建て替えによって余剰分が見込めないなどから、先送りになりがちです。
こうした状況下において、改正法が施行されました。
では、改正法の適用範囲とされる1982年までの竣工マンションについて、これまでに建替えられた物件を除いた現時点における分譲主別のストック数を整理してみます。
首都圏 (1982.12までの竣工物件) | 東京都内 | |||||
分譲主 | 件数 | 戸数 | 平均 戸数 |
件数 | 戸数 | 平均 戸数 |
民間マンション | 12,147 | 657,663 | 54 | 7,329 | 334,649 | 46 |
公団・公社 | 582 | 176,469 | 303 | 90 | 16,809 | 187 |
計 | 12,729 | 834,132 | 66 | 7,419 | 351,458 | 47 |
マンションの建て替えは同潤会がすべて完了しているので、現時点での対象分譲主は民間マンションと公団・公社です。このうち公団・公社のストックは582件ありますが、前項で述べたように耐震補強についてはほとんどが実施しています。
よって改正法が適用される対象ストックは民間マンションに限られます。費用の面で建て替えは無理、耐震補強にも敬遠気味という状況下、この改正法が新たな選択肢になり得るか、そのポイントを探ることにしましょう。
角度を変えてみてみます。それはマンションを購入した区分所有者の所有目的が変化していることです。「居住」の目的で購入し住んでいたけど、転勤等で引っ越しをして、その居室を賃貸にしているというケースが増えています。最近は当初から投資を目的に購入する人もいて、一人で複数戸を所有する人も珍しくありません。数値ではつかめませんが、所有の目的が「居住」から「資産運用」に転じていることは確かです。
資産運用には空家リスクがあります。今回の対象物件のような高経年であると、たとえ立地がよくとも気の抜けないものです。
国土交通省のガイドラインによると「売却後に買受人(デベロッパー等)によりマンションが再建されることが現実的には多いもの」としながら、「売却後に建設される建築物の用途等については、制度上特段の制限を設けておりません」と付記しています。
そして「マンション以外の用途が経済的に合理的な最高最善の使用方法として判断される場合もあります」としており、その開発利益については「売却代金として区分所有者に還元されます」と記してあります。
区分所有者は、所有するマンションに住んでいなくて賃貸にしている割合が高い。そして改正法のガイドラインには、建替えたマンションへの居住の文字が見当たらないだけでなく、マンション以外の建物の建築を否定していません。さらにその開発利益は還元されるのです。
改正法によるこうした状況の変化に、資産運用目的の区分所有者はどう対応するのでしょう。注目されます。
以下、関連資料を付記いたします。
★対象ストック | ||
築年 | 件数 | 戸数 |
1982.12までの竣工 | 703 | 33,444 |
★築年帯別のストック数 | ||||
築年帯 | 件数 | 戸数 | 平均階高 | 平均戸数 |
1973.1~1983.12 | 527 | 24,192 | 7.2 | 46 |
~1972.12 | 176 | 9,252 | 8.2 | 43 |
★特定緊急輸送道路沿い | ||
接面道路 | 件数 | 戸数 |
特定緊急輸送道路沿い | 70 | 4,124 |
住人はそこを住居としているより、どちらかというと事務所のような感じではいっていたかも。
都会の一等地に比較的安い賃貸で住むことが出来たところが良かった。 部屋も値段の割に広いのでおすすめできる。
免震リノベーション、大規模修繕を成功させた事でも有名なマンション。良い管理組合ならでは。
東日本大震災では大きな問題は起きなかったが、ピロティ構造の旧耐震基準の建物であり、大地震への不安は残る。
半分は住んでいるが、事務所化が進んでいるので、管理組合の理事選びが大変。ごみの分別等、守らない人がいる。
管理状態は徹底されており定期的な修繕も欠かさず維持管理されているが、やはり築年数が40年超なので、それなりにレトロな感じの印象を受ける。
居住者の声 ― 口コミサイト「マンションノート」より収集